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徒然漫画語り・其の九十八―美内すずえ『孔雀色のカナリア』

人間賛歌の作家・美内すずえが描いた、唯一の闇。

物語は『ジェーン・エア』を彷彿とさせるヒロインの独白によって幕を開け、展開していく。

貧しい母子家庭で、じゅうぶんな愛を得られずに、また不幸な事故で顔に大きなケロイドを残し多大な辛酸を味わいながら育ったヒロイン。母の今際に、自分には生き別れになった双子の妹がいることを知らされる。遠くから一目見るだけでもと彼女が養子に出された家は裕福で、そして傲慢に育った妹の仕打ちにヒロインは静かに、燃えるような決意を胸に抱く。「妹を殺し、彼女と摺り変わろう」と……。

かくて、物語はヒロインによる殺人譚となる。人は、堕せる。それこそが人なのだ。けれどもヒロインは、それでも人を愛するのだ。妹の婚約者と、妹を憎んでいた男と。悲しみの果てで彼女は、束の間の安息を知る。それを打ち砕くサイレンが刻一刻と近づくのを聴きながら。孔雀の羽根を隠れ蓑に王座に就いたカナリアが、今まさにその姿を暴かれ玉座から転落する予兆を胸に孕み。

何があっても希望を胸に抱き前進するヒロインを描き続けた美内すずえが、この1作で見せた、闇。異端の作。

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