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徒然漫画語り・其の九十七―坂本眞一『イノサン』

  人を殺めようとすれば
  同じだけの痛みが我が身を襲うんだ

  その覚悟を持つ者だけが
  この舞台の上で正気を保っていられるのだ…




これだけの物語を描こうとすれば、それだけの痛みが我が身を襲う。
その物語に触れた者もまた、その痛みによって引き裂かれる。

どれだけの苦しみと共に画面を埋めているのだろうか、と思う。
時代の荒波の悪戯によって歴史に、おそらくは不本意にもその名を残した稀代の死刑執行人シャルル・アンリ=サンソン。彼を描くということ。出自と共に彼が背負ってしまった、負い切れぬまでの悲哀を描くということ。

殊更に、ダミアン八つ裂きの刑の描写の凄惨な様。阿鼻叫喚の地獄絵図の合間に挿入される、幻想的なメタファーの夢のような美しさ。いや、それは本当に夢なのだ。地獄の果てよりも更に地獄めいたこの地上で、悲しき者たちが抱いてしまった故に美しすぎる夢なのだ。殺す者と、殺される者と。一見共鳴することなどありえないはずのその2人の夢が共鳴し合って、その処刑は共同作業となる。死にゆく者と、至らしめる者とで。

実際、しかしあの辺のくだりはそうでもなければ読み手として、とてもじゃなく耐え難い。総て終わったその後に、音楽すら奏で終わったその後に、涙を流すシャルルの美しさに更に心を抉られる。こんな時代が、おそらくは描かれたよりも無残で汚らしい時代が、本当に存在したのだ。いちばん恐ろしいのは、歴史を振り返っていつも感じるのですが、そのことなのではないかと思うのです。

そして、サンソンの赤い血の体現者としてのマリー・ジョセフ。彼女の存在はこの先、物語において何を示していくのだろう(彼女の地位は史実なのでしょうか? ネットごときでは調べても出て来ぬ…)。

ページをめくるのが恐ろしい。けれどもう、私は彼や彼女の生涯を見届けないわけにはいかない。もはや、眼を背けることは許されない。精緻な作画は寸分の狂いも無く、眼前にそれを突き立てる。

殺すも死せるも命がけ。
描くも読むも命がけ。




あと、最後にこんなこと書くのもアレですけど、シャルルがすげー好きですヽ(´▽`)/!!!

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